【報告】研究成果報告会「小川貫弌師旧蔵資料における中央アジア出土写本の意義」を開催【古典籍・文化財デジタルアーカイブ研究センター】
2025.06.24
2025年6月18日(水)、龍谷大学大宮キャンパスで、龍谷大学古典籍・文化財デジタルアーカイブ研究センター(DARC)主催、世界仏教文化研究センター「西域総合研究班」共催による、研究成果報告会が開催された。講演者は、敦煌文献、とりわけ講経文を研究されている本学非常勤講師/世界仏教文化研究センター・嘱託研究員の髙井龍氏で、講題は、「小川貫弌師旧蔵資料における中央アジア出土写本の意義」である。
当日は、DARC博士研究員の荻原裕敏が司会進行をつとめ、本学文学部教授岩尾一史が、講師紹介並びに開催趣旨の説明を行った。また、これらの資料を大切に保管してこられた西嚴寺住職・小川徳水氏にも、ご出席を賜った。本報告会では、小川貫弌師旧蔵資料に含まれる漢文断片の悉皆調査について、その成果と資料の持つ意義、及び今後の課題についてご報告頂いた。

講演会要旨
本報告会が対象とする「小川貫弌師旧蔵資料における中央アジア出土写本」とは、文学部歴史学科教授(後、図書館長)として本学に在籍された小川貫弌名誉教授が、大谷探検隊の隊員・橘瑞超氏から寄贈された大谷探検隊収集資料である。これらの資料の多くは極小断片であり、調査を目的として本学に寄託された。初歩的な調査の結果は、大木彰・橘堂晃一・吉田豊「大谷探検隊収集「西厳寺蔵橘資料」について」(『東洋史苑』第七〇 ・ 七一合併号)によって紹介されており、特に同論文に附されたリストは、非常に詳細なものとなっており、現在でも参照されるべきものである。
しかしながら、大木・橘堂・吉田論文に附されたリストは、初歩的調査の結果の提示に留まり、漢文断片については比定結果のみで、録文が全面的に公開されたことはなかった。従って、髙井氏の調査の重点も、今後の論文化を前提とした正確な録文の作成に置かれている。

本報告会における報告は、①全断片の翻刻の提示、②新しく比定された断片の紹介、③日本古写経との関係、という三つのテーマから成っている。髙井氏は文書の翻刻作成に際して、原文書を調査し、正確な翻刻を行った。これにより、17点の未比定の断片を比定するに至った。大部分の断片は1点しか含まれていないが、数の多いものとして、『法華経』・『涅槃経』・『大般若波羅蜜経』が挙げられる。また、新比定の断片の内、特に重要な発見として、杜預撰『春秋経伝集解』が1点、『春秋左氏伝』の断片が2点、存在する点を指摘された(後者の2点は直接接合するため、実際は1点)。
近年、日本の学界では、寺院などに所蔵される古写本、所謂日本古写経の調査が課題となっており、重要な成果が着実に蓄積されている。髙井氏が調査された漢文断片にも、『大正新脩大蔵経』の本文ではなく、日本古写経に一致する本文を含む断片が存在しており、その内の11点について、文字の異同を紹介された。敦煌写本と並んで、日本古写経は古層の本文を留めていることから、これらの断片も、本文の復元に対して重要な情報を提供すると言える。なお、報告終了後は、世界仏教文化研究センター西域総合研究班「小川貫弌氏旧蔵資料の調査研究」グループリーダーの佐藤智水氏より、コメントがなされた後、今後の課題について、参加者との活発な意見交換が行われた。

荻原裕敏(DARC PD)